学校裏サイトの舞台は「ケータイ」文化なんですけど

以前、「学校裏サイト問題の本質は「いじめ」問題であることを、ほとんどの人が認識していない - Thirのノート」という記事を書いたあと学校裏サイト問題についてはほとんど言及してこなかったのだが、最近また写真が怖いのにブログのタイトルは可愛いことで有名な吉田氏が「けんじろう と コラボろう!:オルタナティブ・ブログ」で言及されたり、"ミルクカフェ・2ch2管理者が現状について述べた記事"が話題になっているので、このタイミングでまた学校裏サイト問題についてコメントをしてみる。とりあえず、僕の学校裏サイトに関する見解は前回の記事でかなりまとめているので、そちらを参照あれ。

学校裏サイトの舞台は「ケータイ」

ITMediaの記事で一つ引っかかったのは、2ch2及びミルクカフェの管理者を「学校裏サイト管理人」の代表格として登場させている点。僕がいろいろと聞いて回った感覚*1や、自分が高校に在籍していた頃*2を考えると、大半の学校裏サイトはいわゆる「ケータイ文化」を基盤としていて、正直な話彼らを「学校裏サイト管理人の代表格」として登場させることに僕はかなりの違和感を覚える。で、そういう「大多数の学校裏サイト」はIPアドレスUAを制限することでPCからのアクセスを極力禁止しているので(携帯向けのサイト開設サービスは皆そういうのをデフォルトでくっつけているのだ)、Googleでも引っかからない。PCを一般的に使用している人間とは、文化としてほとんど接点のない場所で、彼らは暮らしているのだ。
実際中高生でPCを頻繁に使用する人というのはそこまで多いわけではなく、大多数はケータイを使用してネットに接続する。彼らがPCを使うのはせいぜい学校の調べ物でインターネットが必要になったときくらいのもんで、普段はケータイから身内で運営する掲示板なりサイトなりを見るのである。さらに言えば彼らはブログの更新すら携帯から行っていて、だから「アメーバは携帯からアクセスしたときのUIが悪い」等と、ブログサービスを選ぶ基準が携帯になっていたりもするのだ。それくらい、彼らの生活には「ケータイ」が密着しているのである。中高生層を取り込みたいなら、はてなもその辺は意識すべき。

裏サイトは徐々に深化する

さて、前回の記事でも言ったとおり、「学校裏サイト」とはそもそも健全なコミュニティ空間であった「勝手サイト」が、何らかの原因により「裏」化することで発生する。その原因は現実における些細ないじめである場合もあるし、掲示板上でのちょっとした言い合いのこともある。とにかく、まずターゲットがあり、ターゲットを攻撃するために掲示板を開設する事例よりも、もともとコミュニティ空間が存在し、それがある日突然特定個人に対する攻撃の温床となる事例のほうが多いことは注目しておくべきであろう。僕が見た事例では、最初に「勝手サイト」として創られた掲示板が、一定の日数を経て落ち着いてきた頃、気を緩めた誰かが特定個人に対する批判感情を文字化することで感情を表面化させ、それが徐々に共有・拡散、ついにいじめの対象となるケースや、そのコミュニティ内で発生したある種の「いざこざ」がきっかけとなってコミュニティ内の人間が一人象徴的に疎外を受けるようなケースが非常に多かった。まあ、さしあたりこの辺のことは前に書いた方を参照していただければ幸いである。
さて、ここからが本題。「健全なサイトが裏化する」という事実は、実は解決の突破口になるのである。というのも、初期の「裏サイト」は当人に見える形で裏化するからである。健全なサイトが裏化すると、それまで悪口を共有・意識していなかった人間までもがそれを共有するようになり、情報はネズミ講的に瞬時に拡散する。しばらくすると、その情報は当人の耳にも入ってくるものである。「このサイトに書いてあった」とアドレスが本人の手に渡る場合も多い。あるいは最後に示した事例のような場合だと、本人はサイトが裏化する光景を自分で確認することになる。さて、我々に必要なことは、この段階でいじめ本体を根絶することである。

初期の対処が命運を握る

この状況で必要なことは、裏サイトを潰すことではない。裏サイトを潰すことは、むしろいじめの貴重な資料を破壊することに繋がり、解決のための糸口を消してしまうことに繋がりかねない。本当に必要なのは、何が加害者の「いじめ感情」を誘発しているのかどうか分析し、それを是正していくことである。基本的に、「裏サイト」問題は「いじめ問題」の一種であって、我々の現前に存在する新たな学校問題ではない。よって解決は現状の「いじめ」解決手法をそのまま踏襲することになる(とはいえ、現実のいじめ解決方法というものがなかなか存在しないのが、この問題の難しいところ)。ただ、裏サイトによっていじめの理由*3がそっくりそのまま文字化されていることが多いので、(被害者側にとっては大変酷かもしれないが)何をどのようにアプローチすべきなのかは、それまでのいじめのような「理由が全て加害者の心情の中に隠されてしまっている」場合よりは格段に楽である。このように、「学校裏サイト」によりごく小規模ないじめであれ可視化されるため、そこに技術的な視点を含め多面的なアプローチを取り入れることで、いじめの対処ははるかに楽になる。

対応を間違えると悲惨

いじめというのは、その大半が「ひとりのいじめっ子を作ることで、他の大多数のいじめられっ子が自らの集団を意識する」という比較の構造により成立しているため、そこに集団と対峙出来る別の何らかの比較対象を持ち出してやらなければ、彼らの「いじめ欲求」は収まることがない。事実、大人の圧倒的な権力により表面的ないじめは解消するが、加害者集団のいじめ感情はそのまま温存されるような事例は山ほどある(先に挙げた吉田氏の件は、対応を誤るとそうなりかねないものである。ただ、吉田氏はオフ会で話した印象だと他者とコミュニケーションを行うのが非常にうまいので、精神分析的な作業を行い平穏を導いたのだろう)。そのように、対応を誤り感情を残したままにしておくと、ここで誹謗中傷のための裏サイトが誕生する。
こうなると対応は面倒だ。誹謗中傷のための裏サイトは、パスワードをかけたり、アドレスを極力周りに教えないようにするなどして、存在が流出しないよう、あるいは流出しても内容までは至らないように心がけられることになる。それまでなら適当な段階で消失する場合もあった「いじめ感情」は、そこに文字として残されることで加害者側の意識からも消滅しなくなる。そうならないためにも、初期の対応は鍵を握ると言って良い。

ということで、ITMediaの記事がどのように展開されるかを見守り、この後を書くことにする。最後に一つ言いたいのは、ITMediaは適当に学校裏サイトを定義づけして高校卒業から10年以上経過した人にインタビューをして喜んでいるのではなく、高校生の管理者に直接話を聞くとか、そいうことをしていただきたいということ。僕なんかはid:kanose氏の「2ちゃんねるの企業スレで、社内の話ばっかりのスレは会社裏サイト」というブクマコメが、まさにそのことを皮肉っているようにしか読めないのですよ。いや、だって掲示板運営会社の社長にインタビューしてもどーにもならないのと一緒でしょ、今回の記事は。せめて魔法のiらんどとかdblogとかxxneとか、少なくともそういう「ケータイ文化」に踏み込まないと、一介の大学生にその根幹を突っ込まれちゃうような記事になりかねないのだが、そこは今後の記事を見守ることにする。

ちょっと追記

「学校裏サイト」管理人に聞く(中):報道が「学校裏サイト」を増やした 削除依頼の実態は (1/2) - ITmedia NEWS」がアップされたが、あまりの無責任な発言、そして責任をメディアに転嫁しようとする姿勢に落胆した。この件については後日改めてコメントする。

*1:一応中学生用の塾でバイトしてるので雑談でその辺の話はよく聞く

*2:まだ1年ちょい前の話

*3:原因なきいじめは多いが、たいていの場合(理不尽なものであっても)いじめの理由は存在するものである。その後精神分析的な手法をとり無意識にある感情を文字に表現し意識化することで、「いじめ」は解消される場合が多い。もちろん、いじめが発生したそのコミュニティにいじめられた人間がそのまま留まらなくてはならない理由は存在しないが。