「dig-na」の『失敗』から学ぶべきこと、教えるべきこと

反省した方がいい。もちろん、それは@umeken氏のことではない。氏を誑かした、起業を無条件に礼賛しているようにみえる学生や大人たちのことである。
事の経緯を一応説明しておく。「スーパー高校生」であり、「デジタルネイティブ世代の筆頭株」であった@umeken氏が、仲間の高校生を誘って起業することになった。ほどなくして社名は「dig-na」に決定され、昨日、「株式会社ディグナ - 想像を、創造に。」が公開された。しかし、その内容がスパムまがいの行為である点や、あるいはサイトデザインの点からTwitter上で大きな批判を浴びた、ということである。

会社を設立するうえで、イメージや評判の低下は、由々しき事態である。インターネットをメインに営業活動を行う企業にとって、そこでのイメージダウンは業績の低下と瞬時に結びつく。いわば彼は、彼の愛したTwitterによって出鼻をくじかられた形だ。これを失敗といわずして何と呼ぼうか。しかし、その責任が彼と彼の仲間だけにあるとは思わない。Twitterによって敷衍した自己、つまり彼個人の「クラスタ」の性格に、失敗の原因は大きく依存している。

正直、私は個々の批判内容についてはどうでもいいと思っている。例えば、サイトデザインに関しては、悪質な情報商材サイトとの相違が指摘され、誤解を招くとのツイートが散見出来たが、情報商材サイトや楽天・Yahooオークションなどの激安経販売店がなぜこれほどまでに似通ったデザインを採用しているのか、すなわちそのようなデザインには一定の効果があってこそ使用されているのではないか、ということを考えれば、「Twitterマーケティング」のような、ある種「そういうのに疎い人」を対象としたビジネスを行うに当たっては、むしろ効果的な面もあるのではないか、と考えた。もちろん、「デジタルネイティブ」世代が、「非デジタルネイティブ」世代を騙すような構図になっていることに関しては、多くの批判を浴びることは間違いない。しかし、そのようなビジネスは、SEOSEM対策に見られる悪質さとさほど代わりはなく、むしろインターネットを基盤として発生する新たなビジネスはどこか「怪しさ」を放っていることが多いことも考慮すれば、倫理的な側面以上に批判される筋合いはないのではないか、と私は考える。別に、彼には最初からなにか画期的なアイデアがあって起業しようと考えているような側面はなかったのだから(これに関しては稚稿「デジタルネイティブという「誤解」 - Thirのノート」で触れた)、根本的な問題がここにあるとは思っていない(個人的には、氏は自分の持っているブランド力を活かす方向で進めたほうがいいのではないか、と思うけどね)。

私は、起業するためには金と人脈、一定の年齢が必要であると強く考え、また実感している。いくら株式会社がゼロ円で設立できるようになったと言っても、最初のクライアントを持つまでの資金源はどうしても必要になるし(また、開業にあたりいくらかの経費もかかる)、仕事を受け持つための人脈も必要であるし、何よりも年齢は一番の財産となる。まだ年を重ねていない状態で営業を申し込み、もし面接までこぎつけることが出来たとしても、彼らが評価しているのは「年齢」や「物珍しさ」だけだったりすることは非常に多い。しかし、そこに魅力的な案件やアイデアが眠っていない限り、彼らは見向きもしないだろう。また、相手となる企業は往々にして「若い=経験不足=最初から話半分でいこう」みたいな、マイナスのイメージから話をスタートさせる。そのうち資金が尽きる。VCや役所に頼ろうとも、若いので相手にされない。人脈を頼ることもできない。負のスパイラルすらおきず、全てはそこで終わる。なにはともあれ、年齢というのがマイナスに作用する局面というのは、意外と、というかかなり多い。少なくとも、学生という身分がプラスに作用する時代は、ライブドア堀江貴文氏を巻き込む一連の事件のあと、終局を迎えたのではないか。

いわゆる「社会の厳しさ」のようなものがあるとしよう。私は、それを過度に教えるべきではないと思う。けれども、これから働こうとする人間には、教えなくてはならないことがある。その一つがこれである。が、いろいろな人が「これからの時代は社会に仕事を提供することはメインとなる」みたいなことをそそのかし、必要なことを何も教えないまま、ただ夢だけを彼らに与えようとする。もちろん、それは彼らが夢だけを追いかけた結果ある程度成功しているからかもしれない。だが、夢は現実があって初めて機能するものだ。現実を教えないで、夢を追いかけることができるだろうか。

さらに不満を書き続ける。高校生や大学生のなかには、ただひたすら起業したいと思うだけで、なんとなく事業を立ち上げてしまう人がいる。そういう人が行うのは(あんまり人のこと言えないのだけれど)、決まって教育関連、SEOSEM関連、ソーシャルアプリ開発関連、学生マーケティング関連、ウェブデザインやホスティングの代行関連と相場がきまっている(これらをまとめて「意識の高い学生ホイホイ事業」と呼ぼう)。だがちょっとまってほしい。そういったことは、今すぐ会社を立ち上げなければできないことなのだろうか。個人事業主や学生団体ではいけないのか? 会社を作るということは、自分が意識しなければならない範囲というものが、格段に広がることを指す。責任をもってそれらをすべて統括することは、ろくな社会経験もない人間には酷なことである。また、学生が起業するということは、それらを本職としてやっている人間に対し、片手間に行うことで挑戦をする、ということでもある。ようするに、はじめからほぼ負けることが決定している戦いである。確率的に考えれば、彼らの一部、それもTwitter上でさかんに己の経歴のアピールを繰り返す人間は、己の鋼鉄のプライドを維持するために自分の会社を持っていると考えて過言ではない(一応いっておくが、もちろんそうじゃない人もいる)。そんな人間の言うことははじめから聞かないほうがいい。補足しておけば、誰がどういう人間なのかは、ここ数年のインターネットの進化によって、格段に考えやすくなっていることも考慮したい(いうなれば、この記事を信じるか信じないかも、あなた次第です、ということだ)。もちろん、画期的なアイデアを持っている場合は別だが。

彼の失敗から学ぶべきことというのは、そういうことだ。それに、私はこうも言いたい。このような状況を分析することができない人間が起業したところで、成功する確率は限りなく低いであろう、と。また、ある種の緻密さや狡賢さがあって初めて成立することを、やすやすと人にすすめることだけは避けるべきではないか、と。だが同時に、一度失敗を経験した人間は、上記のようなプライドダイヤモンドさんに比べれば、格段に強いとも思うのだ。一度の失敗は、それだけで必要な論理と柔軟性をすべてその人間に与えるのだから。