ドコモ不在で進んだアップルのiPad/iPhone戦略

iPadがついに日本に上陸する。しかし、iPadSIMロックをかけて販売するのは、ほかならぬ日本だけである。このことから、iPadSIMロック構想はソフトバンク側からアップル社に提案したことであることは、容易に読み取ることができるだろう。では、なぜアップル社はiPadSIMロックをかけることを許したのか?
多くの人は、答えは「アップル社とソフトバンクの蜜月関係にある」とみている。また、私もそう考える。id:shao1555氏は、ソフトバンクとアップル社の蜜月関係についてこう指摘する。

そこですかさずソフトバンクは「うちで販売戦略をやらせてほしい」とアップルに声をかけ、販売や価格に影響力を強く持つようになります。こうなればソフトバンクのお手のもの。"HIT-SHOP"や"Yahoo! BB紙袋"で社会問題化するほど強い営業力を持つ光通信系の代理店やらが本気でiPhoneを拡販しはじめます。

結果は大成功。アップルのブランディングを超えたところでソフトバンクの販売網がiPhoneの売り上げを促進し、ソフトバンクの販売網はアップルにとってなくてはならないものになっていったのです。

なぜソフトバンクはiPadにSIMロックをかけたのか - shao's diary

アップル社とソフトバンクの蜜月関係はどこからきたのか。それはもちろん、iPhoneの販売戦略におけるソフトバンクの重要性をアップル社が認めたためであろう。また、ソフトバンクからアップル社に熱烈な「ラブコール」があったのは間違いない。ソフトバンクはアップル社に「iPod携帯」を今から数年前から提案したこともあり、また3GSの開発やOSの開発においてソフトバンクの技術者をアップルに派遣したことが明かされている。

iPhone 3G Sの開発に関してはソフトバンクのエンジニアも何人か関わっているのですが、我々役員にもその内容を教えることができない、かなり厳しい秘密保持契約が結ばれています。

「混乱の少ない方向でiPhone 3G Sを提供したい」――ソフトバンクモバイル宮内氏 (1/2) - ITmedia Mobile

iPhone 3GS」の開発におけるソフトバンクの関与は、iPhoneの独占契約を後押しするものであったことは間違いない。開発の段階からソフトバンクが関わっているものに対し、他のキャリアがいわば「タダ乗り」するようなことは常識的に考えてあり得ないと思われるからだ。では、iPhone 3GSにおける蜜月関係を作り出したのは何か? といえば、それがまさしく先に引用した「iPhone 3G」におけるソフトバンクの販売戦略の成功だろう。ソフトバンクは、2006年に一度日本経済新聞社に「iPod携帯」共同開発の件をリークされ、結果その話がご破算になったことは記憶に新しい。このときから、販売や発表において厳しいルールをかすアップル社の内情をソフトバンクは痛いほど思い知らされることになったのではないか。

かくして、iPadSIMロックをかけられるという異例の事態のままソフトバンクから発売されることになる。その裏には、それまで築き上げてきたソフトバンクとアップルの信頼関係がある。ソフトバンクはアップルのブランド戦略を支持し、ほとんどMVNOに近い形態での販売を認めてきた。それはおそらく、「携帯のどこかにDocomoロゴを入れなくてはならない」(噂だが)などの厳しい販売ルールを持つドコモや通信方式の違うauにはできなかったことだろう。

主体はドコモにあるのではない。iPadソフトバンクが獲得した理由は、iPhone以前における熱烈な「ラブコール」とアップルの意向を最優先するという姿勢、さらにiPhone 3G発売以降のソフトバンクの販売戦略をアップルが認めたこと、そしてiPhone 3GSの開発にソフトバンクが関わったこと、これらを統合した結果である「蜜月関係」にある。他の国とは違い、ソフトバンクが販売戦略に大きく関わったことがその「勝利」の一番の要因であり、そこに他キャリアの姿は不在であったといっても過言ではないだろう。つまり、ソフトバンクは積極的な理由から選ばれたのであり、「他キャリアではだめだから」という消極的理由から選ばれたわけではないのである。ドコモは選ばれなかったのではない。最初から選択肢になかったのだ。